農業における獣害問題についての大学入試小論文解答例です。近年、野生動物による農作物被害や人里への出没など、いわゆる「獣害」が深刻な社会問題となっています。特に高齢化や過疎化が進む地域では、対策の担い手が不足しており、農業や地域経済への影響も無視できません。こうした複合的な課題は、大学入試小論文でも頻出テーマのひとつです。この記事では、獣害の現状と問題点を整理した上で、実効性ある解決策を提示する小論文の解答例と、論述の構成・書き方のコツを解説します。
【予備知識】獣害の問題点と解決策について
獣害問題とは
野生鳥獣による農作物への被害は、日本の農業にとって深刻な問題です。 シカ、イノシシ、クマなどの野生動物が農地に侵入し、作物を食害・踏み荒らすことで、 農家の経済損失や営農意欲の低下を引き起こしています。
被害の現状
発生原因
- 生息環境の変化…森林の荒廃や里山管理の不足により、野生動物の生息地が変化し、人里への接近が増加
- 気候変動の影響…温暖化により動物の生息域が拡大し、繁殖力が向上。冬期間の生存率も上昇
- 農山村の過疎化…人口減少により耕作放棄地が増加。野生動物にとって安全な生息地と餌場を提供
- 天敵の減少…狩猟者の高齢化・減少により、自然の個体数調整機能が低下
効果的な対策
- 侵入防止対策…電気柵、ネット柵、鳥獣害対策用フェンスの設置。適切な維持管理により効果を持続
- 個体数管理…計画的な捕獲により適正な個体数を維持。ICT技術を活用した効率的な捕獲システム
- 生息環境整備…緩衝帯の設置、里山整備により動物の生息地を適切に管理。人と野生動物の共存を図る
- ジビエ活用…捕獲した野生鳥獣を食材として活用。地域資源として収益化し、持続可能な対策を推進
- 地域連携…市町村、農協、猟友会等の連携による総合的な対策。地域全体での取り組みが重要
- ICT技術導入…センサーカメラ、GPS首輪、ドローン等の最新技術を活用した効率的な監視・捕獲システム
未来への展望
獣害問題の解決には、防除・捕獲・生息環境管理の三位一体の取り組みが必要です。 地域が一体となって継続的な対策を実施することで、 人と野生動物が共存できる持続可能な農業の実現を目指します。
【ある人の解答例】獣害の問題点と解決策について
獣害の問題点は、クマやシカなどによって起こる食害である。なぜならば、 食害によって作物の収穫量が減少すると、その分私たちが食べられる作物の量も減少するからだ。さらに、シカは木の皮や植物も食べるため、木を何度も植え直す事で地盤が弱くなり、災害が起きやすくなり、植物が減るとその植物を 餌としている虫が絶滅する可能性もある。
このような問題を解決するために私は作物や食害を防ぎたい場所に電気柵をつけるべきだと考える。なぜならば、電気柵をつけることで食害を防ぐことが できるからだ。
しかし、電気柵をつけ続けた場合、作物の収穫量は上昇するが、動物は食料を探しに人が住む街に降りてきてしまう可能性もあるため、食害問題を別の問題を起こさずに解決するためには、動物が住む場所の増加や去勢などの個体数 管理を電気柵と合わせて行う必要も考えられる。
私は、食害問題解決のために作物や食害を防ぎたい場所に電気柵を設置すべきだと考える。しかし、電気柵を設置した影響で別の被害が起こってしまう可能性も考慮して、動物の住む場所の増加や去勢、やむを得ない場合は個体数の管理についても考えなければならない。
【講評・添削抜粋】獣害の問題点と解決策について
<講評>
獣害の問題点について明確に述べ、電気柵を設置することで食害を防ぐという解決策を提案しています。さらに、電気柵の設置に伴う新たな問題点についても触れており、包括的な視点を持っている点が評価できます。
<より高得点を目指して>
【1】具体的な事例やデータを示すことで、主張の説得力が増します。例えば、電気柵が実際にどの程度効果を発揮したのか、過去の成功例を挙げると良いでしょう。
↓
(例文)
電気柵を設置することで食害を効果的に防ぐことができる。例えば、北海道のA地域では、2015年に電気柵を導入したところ、翌年の作物の被害が70%減少したというデータがある。また、奈良県のB農村では、電気柵を設置したことにより、シカによる食害がほぼゼロになり、収穫量が約30%増加したという報告もある。このように、電気柵は効果的な対策となり得る。
【2】問題点を指摘しているので、その電気柵を設置するという具体策をどうやって実現するのか記述できるとよかったです。
なぜ、これまで電気柵の設置が実現しなかったのだろう。と考えみましょう。
・設置費用がかかるからかな?
・その対象となる私有地を管轄する住民が、設置の仕方がわからないかな?
・そもそも、電気柵の設置を反対している人がいるのかな?
たとえば、設置費用がかかるとすると、行政などの補助金制度を充実させるのが、実現策になるでしょう。
<別の解決策>
音や光を利用した動物忌避技術などもあります。
↓
(例文)
音や光を利用した動物忌避技術の導入も検討すべきである。これらの方法を組み合わせることで、より効果的に食害を防ぎつつ、動物との共存を図ることができると考える。例えば、愛媛県の果樹園では、音響装置を設置することでイノシシの侵入を防ぎ、果樹の収穫量が維持されている。
<構成案>
<原文をもとにキーセンテンスのみ>
(問題点)獣害の問題点は、クマやシカなどによって起こる食害である。
(理由)なぜならば、 食害によって作物の収穫量が減少すると、その分私たちが食べられる作物の量も減少するからだ。
(解決策)解決するために私は作物や食害を防ぎたい場所に電気柵をつけるべきだ。
(実現方法)一方で、電気柵を設置には~が懸念される。~することで、電気柵の設置は実現できると考える。
(反駁)しかし、電気柵の設置が実現しても、動物は食料を探しに人が住む街に降りてきてしまう可能性もある。それには、動物が住む場所の増加や去勢などの個体数管理を電気柵と合わせて行うことで対応する。
(まとめ)以上のことから、私は、食害問題解決のために作物や食害を防ぎたい場所に電気柵を設置すべきだと考える。
<添削1>
(原文✕)しかし、電気柵をつけ続けた場合、作物の収穫量は上昇するが、動物は食料を探しに人が住む街に降りてきてしまう可能性もあるため、食害問題を別の問題を起こさずに解決するためには、動物が住む場所の増加や去勢などの個体数管理を電気柵と合わせて行う必要も考えられる。
(修正案)しかし、電気柵をつけ続けた場合、作物の収穫量は上昇する。一方で、動物は食料を探しに人が住む街に降りてきてしまう可能性がある。このため、食害問題と別の問題を起こさずに解決するために、動物が住む場所の増加や去勢などの個体数管理を電気柵と合わせて行う必要もある。
→一文が長すぎです。「~し、」「~が、」と続くときは、そこで一旦、文を切ります。
<添削2>
(原文×)私は、食害問題解決のために作物や食害を防ぎたい場所に電気柵を設置すべきだと考える。しかし、電気柵を設置した影響で別の被害が起こってしまう可能性も考慮して、動物の住む場所の増加や去勢、やむを得ない場合は個体数の管理についても考えなければならないと思う。
(修正案)以上のことから、食害問題解決のために作物や食害を防ぎたい場所に電気柵を設置すべきだと考える。→まとめに相当する最後の段落は、前段の同じことを繰り返している印象を与え、字数稼ぎと判定される可能性もあるので、簡潔にまとめましょう。削った字数分を(実現方法)に充てるといいですね。
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