ポジティブアクションについての大学入試小論文解答例
ポジティブアクションについての大学入試小論文解答例
私は、男女差別を是正し女性の社会的地位の向上を主張する上で、ポジティブアクションの考え方が必要であると考える。なぜなら平等は同じ地位に立ってから初めて成立すると思うからである。その平等性を実現するために、積極的に弱者を守り支援していくことこそが第一歩になるに違いない。
この論文から一例を挙げると、現代における政治思想は、女性たちがやむを得ず担ってきたケア労働を、自由に選択した私的領域であると観念しているが、そのケアする権利を基本的人権の1つとして最低限保証し、政府は支援していくべきであると筆者も述べている。この考え方は「ケアの倫理」に基づいていて、他者への共感、自己批判、文脈の中で生じる他者への責任などの、より弱い者への視線から物事を考えることが大切である。一方で、現状を生み出したといえる、公的領域においての基底となる倫理が「正義の倫理」だ。筆者は、「ケアの倫理」の本質について、特定的でありながらも他者をかけがえのない唯一なものとして尊重する態度は、公的領域において必要不可欠であると述べている。つまり双方の倫理は相反するものではなく、お互いを尊重し合って社会を構成していくべきであると考えているのだ。
確かに、家族の生命を支えるために家事労働という労苦を担うべく、「正義の倫理」を尊重してきた歴史を見れば、女性が弱者になるのも当然だったのかもしれない。家族の領域は、国家の干渉を受けずに済むが、無限の可能性に開かれた次世代を養育しなければならない重い課題を持っている。そこでおなかを痛めて生んだ母親が我が子を育てるという考え方に行き着いたという。
しかし、家族を構成する1人1人を見ると、それぞれが異なる背景を持っている。家族という領域は、年齢、能力、出自、性別、民族、国籍を超えた集団ともいえよう。そこで生かすべきは「ケアの倫理」であると私は思う。家族の中の弱者の立場に合わせて、家事労働含む1つ1つのアクションを積極的に行っていけば、男女差別は縮まり、女性の社会的地位は男性と平等になるだろう。
以上のことから、私は男女差別を是正し女性の社会的地位の向上を目指すために、ポジティブアクションの考え方が必要であると考える。
ポジティブアクションについての講評・解説一部公開
【講評】
本文はよく読み込まれていること、題意を踏まえて記述できている点でいいですね。主張からまとめまでの一連の流れもスム-ズでよい。(題意を踏まえる点において、毎年そうですが、アリステトテレスやアイリスヤングキャロルギリガンなどの見解を要約した人も多かったのでgoodです。)
(略)
残念だったのが、ポジティブアクションの具体例そして、ポジティブアクションのAさんなりの考えや提案があるとよかった。この問題にように、「あなたの考えを論ぜよ。」という場合は、自分の考えに対して、「具体例や解決策」を組み込み、自分の考えが浅はかでないことを論じたい。それが、自分自身のアピールとなり、オリジナリティのある論文となる。
ポジティブアクションは、社会的に不利な立場にある人々(例えば女性や少数派)に対する積極的な支援や優遇措置のことを指します。具体例には、雇用や教育の場でのクォータ制、女性やマイノリティを対象とした採用枠の設置などがあります。これにより、平等な機会が提供され、歴史的・社会的な不平等の是正が図られます。ポジティブアクションは、組織や社会全体の多様性を促進し、包括的な環境を作るための重要な手段として位置付けられています。
【より高得点を目指して】
記述できるときは、具体的なデータや事例を用いて現代の政治思想やケア労働に関する論点を詳述する例を以下に示します。
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(例文)ポジティブアクションの必要性
現代社会における男女格差は未だ顕著だ。例えば、2022年の世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数によると、日本は146カ国中116位に位置しており、特に経済活動への参加と機会において大きな格差が存在する。このような状況を改善するためには、ポジティブアクションが必要だ。具体的には、企業の管理職ポジションに一定割合の女性を割り当てるクオータ制の導入が効果的であるとされている。ノルウェーでは2003年に導入されたクオータ制により、企業の取締役会に占める女性の割合が約40%に達し、女性の経済的地位向上に寄与した。
男女差別についての大学入試小論文の添削一部公開
この課題における一般的な構成例。
第一段落 筆者のケアの論理と正義の論理の分析の要約(下記の分析例を参照)
第二段落 自分の意見または、問題提起 (下記の主張例を参照)
第三段落 事例・具体例や反駁または、解決策 (下記の具体例(解決策)を参照)
第四段落 まとめ
<筆者の分析例>
・ケア労働の論理…誰かが担わなければならない労働で、契約論に基づく家族論において、これまでは、女性の「自然・本性」に訴えることで、当然女性が果たすべきであると考えられたと分析。そこには、女性を市民の地位から排除、決して自由意志で選択したわけでもないという事情もある。
・正義の論理…公的領域において基底的な倫理である。「正義の倫理」とされる背景から、特に育児・介護といった家事労働は女性の役割とされてきた。だが、筆者はこうした考え方について、社会的弱者としての女性の立場を尊重する「ケアの倫理」の見地から再考の余地があると考えている。
<主張の例>
男性が働き、女性が家事を担うという一つの固定観念が通用しなくなった現代において、筆者の分析した、ケア労働の論理も当然見直されるべき時代だろう。より正義の論理に根差した取り組みが必要である。
<具体例(解決策)①>
育児休暇を取りやすくする、待機児童をゼロにする、働き方改革など政治主導の制度改革も考えるだろう。私は、育児・介護特別手当の支給はどうだろうかと考える。子どもを育てている家庭、または介護を必要としている家庭には、一定の金額を支給とすると同時に、週1回は特別休暇を夫婦それぞれに与えられるといった手当も付与することで、ケア労働への男性を参加が可能になるだろう。
<具体例(解決策)②>
今後は困窮者向けに対する保険としてこれらの諸制度が機能するようにし、ある程度の所得を得ている社会人には自立した社会人としての応分の負担を求めることで、育児や介護という労働の一部の財源を政府が担い、その役割分担の一部を民間事業者が担うことも可能になるだろう。他にも、こうした保険の運用そのものを民間事業者が行い、政府はそれに対する規制緩和を行うことで、政策的誘導を行うことも可能である。
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