平成25年度【2013年度】慶應義塾大学法学部小論文解答例「内閣制度の問題点」です。
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具体的には、
・維新に功績のあった薩長4人ずつの計8人が政権を独占して、薩長間のバランスを取ろうとしたため、総理大臣がリーダーシップをとろうとしてもうまくいかないことが多かった。
・諸大臣は、各省の利権を代表するという側面が肥大化しはじめ、ついには各省間のむき出しの利害対立、政策的競合に直面せざるを得なかった。
・各省と関わりの大きい人物が総理大臣になったので、主導よりは調整を行う必要があった。
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以上の理由より、内閣制度発足時における首相のリーダーシップは主導よりも調整に重きが置かれていたと分かる。その結果、条約改正交渉のような内閣全体の意思統一が必要な場面ではその特徴が弊害となって現れた。
【ある人の例】内閣制度の問題点(慶應法2013)解答例
内閣制度を多くの問題を抱えていた。1つ目は内閣において、薩長のバランスが意識されることで制度的枠組みに馴染まない性格を持っていたこと。2つ目は諸大臣の各省の利益を代表するという側面が肥大化してしまい各省の割拠性が現れたこと。3つ目は藩閥内の各省とも無縁ともいえない人物が政権のトップとして内閣内の各省間の利害対立や政策的競合に直面しなくてはならなくなったことだ。これらの理由から首相の強力なリーダーシップを保証する「内閣職権」は発動しないことが前提とした建前上のものとなってしまい強力なリーダーシップのもとに実行しなければならないような政策の実行に苦戦した。
私は現在の内閣総理大臣のリーダーシップの在り方は、時代に合わないため変革するべきだと考える。日本の内閣総理大臣は、与党の党首が国会議員と兼任することが慣例となっている。そのため総理大臣は、議会や与党とは相互に依存し合う関係となってしまっている。私は、この仕組みが一国の首長としてあるべき国民を第一に考え主体的に行動するリーダーシップの在り方を阻害してしまっていると考える。実際に日本の岸田総理は、総理大臣に就任後も、派閥の長に座り続け、常に他の派閥や要人の顔を伺う政治を行ってしまっていると言われている。そのため総理の権限は弱く根本的な改革を行うことは極めて難しい。それに対し、国の首長が国民による直接選挙で選ばれるアメリカなどの国では大統領は、議会から独立した強力な権限を持っており、リーダーシップが発揮しやすい環境が整っている。したがって、国民意見を反映させた政策を容易に実行しやすい。
現在日本は転換期を迎えている。超少子高齢化社会、過度に進行する物価高、経済不況、中国・ロシア・北朝鮮の脅威など多くの問題が山積みである。しかし現行の内閣総理大臣のリーダーシップでのあり方では、これらの問題の根本的な解決は難しいのではないだろうか。アメリカのように内閣総理大臣にも議会から独立した強力な権限を与え、選出の際も国民の声が反映されやすい方法を採用するなど、より国民に寄り添った形で首相のリーダーシップが発揮できるような制度の変更が、これから必要になってくるだろう。
【添削・アドバイス】内閣制度の問題点(慶應法2013)
1.事実確認と正確性
「内閣制度を多くの問題を抱えていた」という冒頭の表現は曖昧で、具体性に欠けています。「明治時代の内閣制度は多くの課題を抱えていた」など、どの時代の制度を指しているのかを明確にするべきです。
例:明治時代に創設された内閣制度は、多くの課題を抱えていた。その一つが、薩摩・長州出身者のバランスを重視するあまり、制度的な枠組みに馴染みにくい性質を持っていた点である。また、諸大臣がそれぞれの省益を代表しすぎた結果、各省が割拠し、内閣としての統一性を欠いた。さらに、内閣を率いる総理大臣自身も藩閥政治の影響を受け、省庁間の利害対立や政策的競合に直面する必要があった。このような状況下では、「内閣職権」という名目上の強力なリーダーシップも発揮されることは稀であり、大規模な政策実行には困難が伴った。
2.段落の論理構成
最初の段落で、歴史的背景としての内閣制度の問題点を述べていますが、それが現代の議論にどうつながるのかがやや不明瞭です。「歴史的な内閣制度の課題が、現代の内閣総理大臣のリーダーシップにも影響を及ぼしている」といった繋ぎを明確にするとよいでしょう。
改善前
これらの理由から首相の強力なリーダーシップを保証する「内閣職権」は発動しないことが前提とした建前上のものとなってしまい強力なリーダーシップのもとに実行しなければならないような政策の実行に苦戦した。
改善後
これらの理由から、「内閣職権」という首相のリーダーシップを強化するための制度は、建前上の存在に過ぎなくなってしまった。この結果、内閣として一致団結して実行すべき大規模な政策が停滞し、政府全体の効率性が損なわれた。現代の内閣総理大臣のリーダーシップにも、こうした歴史的背景が影響を及ぼしている可能性がある。
3.比較分析の深掘り
アメリカの大統領制を引き合いに出していますが、日本との違いをもう少し具体的に掘り下げると説得力が増します。たとえば、アメリカでは議会との対立が生じることも多く、その結果として政策が停滞する可能性がある点も挙げるとバランスの取れた議論になります。
改善前
アメリカなどの国では大統領は、議会から独立した強力な権限を持っており、リーダーシップが発揮しやすい環境が整っている。
改善後
アメリカでは、大統領は議会から独立した強力な権限を持ち、国民の直接選挙によって選ばれるため、独自のビジョンに基づいた政策を実行しやすい。一方で、議会との対立が激化すると政策が停滞するリスクも指摘されている。この点で、日本の総理大臣制は議会との調和を重視するがゆえに、独立性やリーダーシップの発揮に課題があると言える。
4.文体の改善
「〜ではないだろうか」「〜と言われている」といった曖昧な表現がいくつか見られます。主張を明確にするために、「〜と考えられる」「〜である」など、断定的な表現を使うと良いでしょう。
改善前
アメリカなどの国では大統領は、議会から独立した強力な権限を持っており、リーダーシップが発揮しやすい環境が整っている。
改善後
アメリカでは、大統領は議会から独立した強力な権限を持ち、国民の直接選挙によって選ばれるため、独自のビジョンに基づいた政策を実行しやすい。一方で、議会との対立が激化すると政策が停滞するリスクも指摘されている。この点で、日本の総理大臣制は議会との調和を重視するがゆえに、独立性やリーダーシップの発揮に課題があると言える。
5.結論を強化する
結論部分で「これから必要になってくるだろう」と述べていますが、何がどのように必要なのか、もう少し具体的に言及すると良いです。たとえば、「具体的には、総理大臣の選出方法を見直し、国民投票制度を導入することや、内閣の権限を強化する法改正を検討するべきだ」といった具体案を示すと、読み手に明確なビジョンが伝わります。
改善前
内閣総理大臣にも議会から独立した強力な権限を与え、選出の際も国民の声が反映されやすい方法を採用するなど、より国民に寄り添った形で首相のリーダーシップが発揮できるような制度の変更が、これから必要になってくるだろう。
改善後
今後、日本が直面する課題を解決するためには、内閣総理大臣にも議会から独立した強力な権限を付与する制度改革が必要である。具体的には、総理大臣の選出方法を国民投票制に移行することや、政策実行において議会の制約を減らす仕組みを導入するべきだ。このような制度変更によって、総理大臣が一国の首長として国民の声を反映しやすい環境を整えることが重要だと考える。
【全体修正案】内閣制度の問題点(慶應法2013)
明治時代に創設された内閣制度は、当初からいくつかの制度的課題を抱えていた。第一に、内閣は薩長のバランスを重視したため、制度の枠組みと整合性を欠く政治的性格を持っていた。第二に、各大臣が自らの担当する省庁の利益を優先した結果、各省が独立性を強調し、統一的な行政運営が難しくなった。第三に、藩閥の影響を受けた人物が内閣のトップに立つことが多く、内閣内部で政策的な競合や利害対立に直面せざるを得なかった。これらの問題により、「内閣職権」という首相のリーダーシップを保証する制度は形骸化し、実行力のある政策推進が困難となった。
現代においても、内閣総理大臣のリーダーシップの在り方には課題が多い。日本では総理大臣は与党の党首を兼任することが慣例となっており、議会や与党との依存関係が強い。この仕組みによって、総理大臣が国民全体を優先した主体的なリーダーシップを発揮することが阻害されていると考えられる。たとえば、岸田総理大臣は就任後も派閥の長の地位を維持し、他の派閥や有力者の意向を重視する「顔色をうかがう政治」を行っていると言われる。この結果、総理大臣の権限は弱く、大胆な改革を実行することが難しい状況が続いている。
これに対して、アメリカなどの国では、国家のリーダーが国民の直接選挙で選ばれるため、大統領は議会から独立した強力な権限を持っている。この仕組みにより、国民の声を政策に反映させやすく、独自のビジョンを持ってリーダーシップを発揮することが可能である。一方で、議会との対立が深刻化するリスクもあるが、少なくとも政策実行における迅速さや決定力という面では優れている。
現在、日本は超少子高齢化、物価高、経済不況、中国や北朝鮮の安全保障上の脅威など、多くの課題に直面している。これらを解決するためには、現行の内閣制度を見直し、総理大臣に議会から独立した強力な権限を付与することが必要である。また、総理大臣の選出方法についても国民の声を直接反映する仕組みを導入し、国民全体の利益を優先するリーダーシップを実現すべきである。
こうした制度改革は、内閣総理大臣が日本のリーダーとして本来持つべき役割を果たすための重要なステップである。これにより、日本が直面する複雑な課題に対し、迅速かつ的確に対応できる体制を築くことが可能になるだろう。
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