【2016年度】慶應義塾大学法学部小論文解答例「トインビーの文明観」

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【平成28年度(2016年度)】慶應義塾大学法学部小論文解答例「トインビーの文明観」です。

【問題】トインビーの文明観とその根拠を400字程度でまとめ、世界文明は「来ようとしている」という指摘について、世界で今起きている具体例に触れつつ自分の意見を述べなさい。
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トインビーの文明観(慶應法2016年度)解答例

【文明観】西洋が非西洋に対して優位としていたのは、ナショナリズムと近代テクノロジーとの結合の結果である。しかし、ナショナリズムは古典的段階のものも、それを超えた帝国主義的なものに行き詰まってしまった。また、テクノロジーは特定の文化に固着する土着性に稀薄なため文明から他の文明へ容易に伝播しうる超越性を備えている。そのため近い将来、非西洋の文明がこれを習得し再生産できるようになると言われている。西洋を支えていた二者がなくなってしまうのだ。それに加えて、「勝者の陶酔」という勝者が優位的地位の永続を錯覚し、緊張を失って衰えていく規則性が西洋文明にも働くだろう。以上より、西洋がそのまま世界文明なのではなく、西洋化が世界に広がることでそれが世界文明に変質し、やがて非西洋の側に主導権が移っていくだろう。そして、やがて世界文明は内的対立でなく、内的多様性としてより大きな枠組みにはまっていくだろう。以上がトインビーの文明観だ。

【主張】私はトインビーの世界文明は「来ようとしている」と指摘に賛成する。課題文が書かれた1978年から45年がたった今、世界文明は我々のさらに近くにあると考える。以下2つの具体例について触れて考察していく。

【具体例1】1つ目は技術である。課題文中で筆者が予測していた通り、近代テクノロジーは西洋から非西洋の諸文明に行き渡り、圧倒的多数の非西洋の文明は技術を習得し再生産するに至ったと言える。むしろ非西洋諸国が技術発達の役割を担っていることが多い。インドの IT産業、日本の自動車産業、韓国の精密機械産業の発達はその代表的な例である。

【具体例2】2つ目は人口の変化である。西洋文明に属する多くの国人口が減少傾向にある一方で、非西洋文明の国人口は急増している。世界人口は依然として増加傾向にあるため、世界人口に対する非西洋文明の国の人口の割合は将来的に更に増していくだろう。

【まとめ】以上の2つの要因により非西洋国は、将来、世界文明の中心を担うだろう。実際、中国の国内総生産はアメリカを抜くと言われており、中国がアメリカやヨーロッパ連合の現在の地位を奪い世界文明の中心に躍進する可能性は否定できなくなった。中国に続き、インドやインドネシア、ナイジェリアなども急成長している。非西洋文明の存在を世界が無視できなくなった今、我々はすでに世界文明が実現する一歩前に迫っているのではないだろうか。

トインビーの文明観(添削一部抜粋)

条件がいくつかある場合は、今回シンプルに問題の言葉尻を拾って、「トインビーの文明観は、~である。その根拠として、トインビーは、~としている。」というような流れでもよかったと思います。

(良かった点)
・構成がよい。立場を明確にし、その根拠を題意に沿った形で文章に体現出来ている。(構成力○)
・現状の世界情勢に対する状況への理解が見て取れ、それを踏まえた自身の視点から考察できている。

(改善点)
省略

視野を広げるために、「反対の意見」を考察してみました。
これまでの20年における「国際化・金融化・情報化」の風潮の中においては、トインビーの世界文明の実現もあっただろうと思います。しかし、コロナ禍をきっかけに、グロールリズムからナショナリズムに、金融資本主義から経済安全保障へと転換が図られている昨今においては、トインビーの世界文明の実現は遠のいたと思われます。

○グロールリズムからナショナリズム(または、自国第一主義)に
(例)トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」を掲げ当選し、次々に自国優先の政策をとってきた。地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」やTPP=環太平洋パートナーシップ協定から離脱は、その代表例。
現フランス大統領マクロンは、世界で高まるナショナリズムの兆候に強い懸念を度々示している。

○金融資本主義から経済安全保障に
(例)岸田政権に代わり、目玉政策と位置付ける「新しい資本主義」の諸施策に、経済安全保障が含まれている事実があります。金融資本主義の象徴ともされるアベノミクスを否定した政策は最たる例ですね。

岸田政権では、経済安全保障政策を通じて、「経済構造の自律性の向上、技術の優位性ひいては不可欠性の確保」を通じて、日本の経済活動や社会構造を守り、国民に安心・安全を提供するということが目指されている。

表面的には、どこの国も国際協力を謳っていますが、実際は、ナショナリズム(または、自国第一主義)になっているのかな。ロシアウクライナ戦争について、どこも軍事的・政治的な介入をせず、どこか見て見ぬふりをしていますよね。これは、自国第一主義で、関わりたくないというのが明白ですよね。これまでのグローバリゼーション、国際協調の中においては、国連やアメリカ軍の介入が当然のようにあったと思います。

<補足>
○インターネットから環境・防衛・宇宙産業へ
(例)GAFAM (Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)のIT企業の雄である5社には大きな逆風が吹いています。その例として、「規制強化」があります。法人税の安い国に拠点を設けるなどして、行き過ぎた節税の規制。日本では、巨大IT企業から利用者の個人情報を守るルール作りがされています。

一方で、環境・防衛・宇宙産業については、国内では、カーボンニュートラルや防衛費拡大、宇宙産業ビジョン2030に向けた動きが活性化している。諸外国でも似たような取り組みをしている国は多い。ナショナリズムと切っても切れない「環境・防衛・宇宙産業へ」の投資額を増やしているわけです。

トインビーの文明観とその根拠

<文明観>
今後、西洋文明が非西洋文明の諸文明を学ばされることを通じて、世界文明が姿を現す。その世界文明は、未来の可能性ではなく、すでに西洋文明に体現されてきている。世界文明の西洋化の速度はますます高まり、思いもそめないことが起こると予測している。

<歴史的・客観的事実を元にした根拠➊>
西洋が優位していた因子は、ナショナリズムと近代テクノロジーのおかげである。ナショナリズムは、産業革命後、単一民族国家の規模として狭小となり、経済の相互依存のため絶対主権を失った。また、テクノロジーは容易に伝播する。

<トインビーの自身の意見を元にした根拠➋>
「勝利の陶酔」という規則性が働くことにある。先行する者が後塵を拝すのは、多くの場合「勝利の陶酔」のせいであり、それは歴史の鉄則である。つまり、世界文明が非西洋に移るに応じて、世界文明は、内的対立としてではなく、内的多様性としてより大きな枠組みにはまっていくこと。

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