近年、日本では少子高齢化の進行により「世代間格差」が深刻化している。年金や医療、雇用の面で若者世代と高齢世代の間に不公平感が広がり、社会の持続可能性が問われている。このテーマは大学入試小論文でも頻出であり、経済・社会・倫理の視点を総合的に考察する力が求められる。本記事では、世代間格差の原因とその対策をテーマとした小論文の書き方・構成例・解答例を紹介し、論理的に評価される答案の作り方を解説する。
【問題】世代間格差は若者が重たい負担を被るという意味と、経済成長や雇用など環境に恵まれていないという意味がある。若者と高齢者の主張はどちらも理解できるが完全に格差をなくすことはできないし、公平性の主張も曖昧である。今の若い世代の負担を少しでも抑えるために、「世代間の負担の分かち合い」を組み込んだ社会制度を作り上げ、世代間格差の縮小あるいは緩和を目指すことを人々の共通認識とするべきである。
若者は高齢者を支えるべきかどうか、その理由や方法について、あなたの意見を、800字程度で述べなさい。
小論文テーマ:世代間格差の原因と対策
【構成例】①序論:問題提起(導入)

世代間格差とは、世代ごとの経済的・社会的な不平等が生じることを指す。
具体例:高齢世代に比べて、若者世代は年金負担が重く、将来受け取れる給付が少ない/非正規雇用の増加で所得格差が拡大している。
少子高齢化が進む日本において、この格差を放置すれば、社会的分断や制度の持続不可能性を招くおそれがある。
→ 「なぜ格差が生まれたのか」「どうすれば是正できるのか」を考察することが本論の目的。
②本論①:原因分析

(A)人口構造の変化
- 少子高齢化により、現役世代が高齢者を支える「社会保障の仕組み」が限界に近づいている。
- 年金・医療・介護制度が「現役→高齢者」への一方向構造であることが不均衡を拡大。
(B)経済構造・雇用の変化
- バブル崩壊以降の景気低迷や雇用の流動化で、若者世代は安定した正規雇用を得にくくなった。
- 高齢世代が保有する資産と、若者の所得との格差が広がり、「世代間の機会の不平等」が生まれている。
(C)政治的要因
- 高齢者層の投票率が高いため、政治が「高齢者優遇政策」に傾きやすい構造がある。
- 若者の政治参加意識が低く、世代間のバランスが崩れている。
③本論②:対策・解決策の提案

(A)税・社会保障制度の見直し
- 消費税など「世代を問わない税収」を活用し、負担を社会全体で分かち合う。
- 年金制度を積立方式に部分的に転換し、若者世代が将来受け取る金額への安心感を高める。
(B)教育・雇用環境の整備
- 若者への教育投資を拡大し、安定した雇用と所得向上を促す。
- 年功序列から実力・成果に基づく評価制度へ移行し、世代を問わず活躍できる社会を目指す。
(C)世代間対話の促進
- 高齢者と若者が互いの立場を理解し合い、共助意識を育む機会を設ける。
- 若者が社会課題に参加できる政策提案・地域活動を増やすことで、政治的発言力を高める。
④結論:まとめ・展望

世代間格差の是正には、単に制度を変えるだけでなく、「世代全体で支え合う意識」を醸成することが重要である。
若者が「支える側」としてだけでなく、将来「支えられる側」としての視点を持つことが、持続可能な社会を築く鍵となる。
経済的な公平性と社会的な共感性の両立こそが、真の世代間調和につながる。
考察ポイント(高得点のコツ)
| 観点 | 内容 | 採点で評価される理由 |
|---|---|---|
| ① 論理性 | 「原因 → 問題点 → 対策」の流れが明確か | 一貫した主張が展開できているか評価される |
| ② 多面的思考 | 経済・政治・倫理の3観点から分析する | 一面的な主張にならず、バランスが取れている |
| ③ 具体性 | 年金制度、雇用格差、投票率など具体的事例を交える | 現実的な視点があると説得力が増す |
| ④ 独自性 | 「世代間の共助」「意識の変革」など自分なりの視点を入れる | 思考の深さが評価されやすい |
| ⑤ 表現力 | 「支え合う社会」「持続可能な制度設計」など抽象と具体を組み合わせる | 言葉の精度が高く、論述が洗練される |
まとめ
- 序論では「世代間格差=社会の持続可能性を脅かす問題」と位置づける。
- 本論では「原因の多層性」と「対策の現実性」を明確にする。
- 結論では「制度改革+意識改革」という二軸でまとめると完成度が高い。
世代間格差の小論文解答例
少子高齢化が進行する日本社会において、「高齢者を誰が支えるのか」という問題は、避けて通れない重要な課題である。私は、この問題の解決には若者だけでなく、社会全体が一体となって高齢者を支える仕組みを構築することが必要だと考える。その理由は、負担を特定の世代に限定することが、世代間の対立や不公平感を生み出し、社会の分断を招くおそれがあるからである。
まず、若者のみが高齢者を支えるという構図は、若者に過度な責任感と経済的負担を強いることになる。これにより、若者の生活水準が下がり、結婚や出産を控える傾向が強まれば、さらに少子化が進み、結果として高齢者を支える基盤そのものが弱体化してしまう。一方で、高齢者が「支えられる側」としてのみ存在すると、自助努力や社会参加への意欲を失い、世代間の不均衡を固定化させることになる。したがって、若者も高齢者も、「支える側」と「支えられる側」の双方の意識を持ち、互いに補い合う関係を築くことが、持続可能な社会の形成に不可欠である。
そのための一つの方策として、消費税の活用による世代を超えた負担の分担が挙げられる。消費税は所得の有無にかかわらず、すべての国民が等しく支払う税であり、「公平性」という点で他の税制よりも優れている。消費税率を段階的に引き上げ、その分を社会保障費に充てることで、現役世代が支払う社会保険料の負担を軽減できる。もちろん、増税には国民の理解が必要であり、高齢者からの反発も想定される。しかし、これは「世代間の負担の分かち合い」を実現するための合理的な仕組みであり、長期的に見れば、社会全体の安定と信頼の確立につながるだろう。
また、もう一つの視点として、自助の促進による「自分で自分を支える」社会の構築も重要である。すなわち、個人が若い時期から老後に備え、貯蓄や投資を通じて将来の生活基盤を自ら形成していく仕組みである。これにより、「現役世代が高齢者を支える」という一方向の関係ではなく、「自分の将来を自分で支える」という責任意識が生まれる。結果として、世代間の経済的格差や不満を緩和できる可能性がある。ただし、この制度を導入する際には、低所得者への配慮や教育面での支援が不可欠であり、単に「自己責任論」に陥らないよう、国家による制度設計が求められる。
結論として、若者だけに高齢者の支援を委ねるのではなく、社会全体で負担と責任を共有する新たな社会保障の枠組みを築くことが必要である。そのためには、税制改革と自助努力の両立、そして「支え合う社会」という意識の醸成が欠かせない。高齢者もまた社会の一員として役割を果たし、若者と共に持続可能な社会の形成に貢献していく姿勢が求められる。
高齢者を支えるという行為は、単なる福祉政策ではなく、「未来の自分を支える」行為でもある。誰もがいつか老いるという現実を見据え、世代を超えて支え合う社会を築くことこそ、真に成熟した社会の姿であると私は考える。
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