【2019年度】慶應義塾大学法学部小論文解答例「国際人権」

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平成31年度【2019年度】慶應義塾大学法学部小論文解答例「国際人権」です。

【問題】次の文章は、国際人権問題への日本の対応について記したものである。著者の議論を400字程度でまとめた上で、それに対するあなたの考えを具体例に触れつつ論じなさい。
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【ある人の例】国際人権(慶應法2019)解答例

【筆者の議論】現代日本の国際人権の対応には、欧米やNGOと違う対比において、5つの特徴が見られる。1つ目は法的な枠組みで発想し行動する傾向が少ないこと。2つ目は日本人の一般的な価値の積極的宣布への消極姿勢。3つ目は調和優先的文化が支配的であること。4つ目が国際社会で政治的役目を果たすことがタブー視されたこと。5つ目が未決の戦争責任の制約である。以上の諸要因に規定されることで、日本は国際人権問題に対して欧米と途上国の主張を足して2で割る無限則的、現状追随的態度を取ってきた。こうした態度は、諸外国から非難の対象になった一方、政策の選択の幅を最大限確保して、その場その場の柔軟な対応を可能にした。多くの欧米諸国は人権問題に対して 宣教主義的、独善的な発想に陥る傾向が強い中、日本は先に述べた欧米との違いが理由でそうした独善とは比較的離れた場所に自らを置くことができた。したがって日本は、欧米型の人権活動を是正、補完し文際的正当性を持つ国際人権政策の基礎づくりに貢献する可能性を有している。以上が筆者の主張だ。

【主張】私は日本の欧米とは一線を画す人権問題に対する非独善的態度は世界的に大きな役割を果たしうるのではないかと考える。

【具体例】代表的な例がサッカーワールドカップカタール大会で発生した問題である。カタールはイスラム教の国家であり、伝統的に女性の権利が制限されてしまっている。この事実に対して欧米諸国のナショナルチームは試合前にピッチ上で抗議するパフォーマンスをしたり、男女平等を主張する腕章を選手がつけたりした。この行動は、一部から称賛された一方、スポーツに政治的主張を持ち込んではいけないと考えるカタール国内外の多くの人から批判された。対して日本は、欧米諸国とは違い政治的主張を一切行わなかった。これは日本の国際問題に対する非独善的態度をよく表している。

【反駁】確かに中国のウイグル問題などへの消極的介入への日本の諸問題の対応は国際的に問題視されることがある。しかし、ワールドカップでの例に代表される日本の欧米とは一線を画す人権問題への対応は、その是非はともかく現在の欧米主導の人権活動に新たな視点を加えることを可能にしたはずだ。私は、アジアから唯一のG7加盟国としても、現在の人権活動を是正、補完し文際的正統性を持つものに変えうる国家は日本しかないと考える。

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【添削・アドバイス】国際人権(慶應法2019)解答例

1.序論部分の明確化
冒頭の「現代日本の国際人権の対応には…」から始まる部分で、特徴を列挙する前に簡潔な背景説明を加えると、議論のテーマをより理解しやすくなります。

例:「現代の国際社会では、人権問題への対応が各国の外交政策において重要な要素となっている。特に日本は、欧米諸国や途上国とは異なるアプローチを取ってきた。この独自性には5つの特徴がある。」

2.列挙部分の簡潔化と具体例の補足
特徴の列挙部分がやや抽象的なので、必要に応じて簡潔にしつつ、具体的な説明を加えると説得力が増します。

例:「1つ目は、法的な枠組みに基づいて行動する発想が欧米に比べて弱いことである。これは、国内での人権問題の解決においても、法制度よりも調和を重視する文化的背景が影響している。」
「2つ目は、日本社会において積極的に価値観を発信することへの抵抗感が強い点である。特に戦後の歴史的背景が影響していると考えられる。」

3.サッカーW杯の例の掘り下げ
具体例として適切ですが、議論の深みを増すために背景情報や対比を詳述すると、説得力が増します。

改善案:「カタールW杯における日本代表の対応は、政治的主張を控えた姿勢として注目された。これは、欧米諸国がジェンダー平等を訴える腕章の着用など、価値観の押し付けに見られる行動とは対照的である。このような欧米の行動は、彼らの価値観に基づいては賞賛される一方で、カタールの文化や宗教を軽視しているとの批判も招いた。これに対し、日本は対立を生まない柔軟な対応を取ったと評価できる。」

4.ウイグル問題の扱い
ウイグル問題に触れる部分は、慎重に論じる必要があります。現在の日本の対応への批判を認めつつ、それが全体の主張を損なわないように工夫しましょう。

改善案:「確かに、中国のウイグル問題に対する日本の対応が消極的であると国際的に批判されることがある。しかし、このような姿勢は一概に否定されるべきではない。なぜなら、日本の慎重なアプローチは、過剰な介入がかえって国際社会での対立を深めるリスクを回避する意図も含まれていると考えられるからだ。」

5.結論部分の強化
最後に「なぜ日本が貢献できるのか」を強調し、結論を力強くまとめましょう。

改善案:「日本の非独善的態度は、現状の欧米中心の人権活動に対する新たな視点を提供する可能性を秘めている。アジアから唯一のG7加盟国であり、多様な文化との接点を持つ日本だからこそ、国際人権政策において調和を重視した独自のアプローチを提示できると考える。これにより、日本は世界の人権活動において是正・補完の役割を果たし、文際的正統性を高める先駆者となり得るだろう。」

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【全体修正案】国際人権(慶應法2019)解答例

現代の国際社会では、人権問題への対応が各国の外交政策において重要な役割を果たしている。特に日本は、欧米諸国や途上国とは異なる独自のアプローチを取ってきた。この特徴には5つの側面が見られる。

1つ目は、法的な枠組みに基づいて行動する発想が欧米諸国に比べて弱い点である。これは、国内外の人権問題においても、法制度よりも調和を重視する文化的背景が影響している。2つ目は、積極的に価値観を発信することへの抵抗感が強い点である。特に、戦後の歴史的背景や対外的な慎重さがこれに影響を与えていると考えられる。3つ目は、日本社会における調和優先的な文化である。これは、対立を避け、共存を重んじる価値観が国際的な対応にも反映されていることを示している。4つ目は、国際社会で政治的役割を果たすことが、過去にタブー視されてきた点である。5つ目は、戦争責任という未解決の制約が依然として影響を及ぼしていることである。

これらの要因により、日本は国際人権問題に対して、欧米や途上国の主張を足して二で割るような現状追随的な態度を取る傾向が強い。この姿勢は、諸外国から批判の対象となる一方で、その場その場で柔軟に対応することを可能にしてきた。また、欧米諸国が人権問題に対してしばしば宣教主義的、独善的な発想に陥る中で、日本は比較的そのような独善とは距離を保っている。したがって、日本は欧米型の人権活動を是正・補完し、文際的正統性を持つ国際人権政策を形成する基盤となり得る可能性を秘めている。

具体的な例として、2022年のサッカーワールドカップ・カタール大会における問題が挙げられる。カタールはイスラム教を国教とする国家であり、伝統的に女性の権利が制限されてきた。この事実に対し、欧米諸国のナショナルチームは試合前に抗議のパフォーマンスを行い、ジェンダー平等を訴える腕章を着用した。この行動は、欧米諸国から称賛される一方で、カタール国内外で「スポーツに政治を持ち込むべきではない」とする批判も多く寄せられた。一方で、日本は政治的主張を一切行わず、カタールの文化や価値観に対する尊重を示した。この対応は、日本の国際問題に対する非独善的な姿勢をよく表しているといえる。

確かに、中国のウイグル問題など、国際社会から日本の対応が消極的であると批判される場面もある。しかし、日本の慎重なアプローチは、過剰な介入がかえって国際的な対立を深めるリスクを回避する意図があると考えられる。また、カタールW杯の例に代表されるような欧米とは一線を画す姿勢は、欧米主導の人権活動に対して新たな視点を提供し得る。

以上のような日本の特性を踏まえると、アジアから唯一のG7加盟国である日本は、現状の人権活動を是正・補完し、文際的正統性を備えた新たな国際人権政策の基盤を築くことが可能であると考える。特に、調和を重視する非独善的なアプローチは、国際社会における対立を和らげ、新たな共通基盤を構築する上で重要な役割を果たすだろう。日本だからこそ成し得るこの役割に、より一層の期待を寄せたい。

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