平成24年度【2012年度】慶應義塾大学法学部小論文解答例「未来国家」です。
未来国家(慶應法2012)
未来国家Ⅰと未来国家Ⅱで共通する考え方は、犯罪を犯してしまうような人間を排除し、人類を皆正義の規範に従うように変えてしまおうというものである。前者は、国民の脳に生まれてすぐに、脳波探知機と送信装置、そしてショック装置を結合した小器具を埋め込むことで、幼児から不埓な思考が起こる度に、電気ショックを受けさせる。そしてコントロールを受け続ける結果、人々は犯罪意志を全く抱かなくなり、刑法・警察・刑務所・裁判所も必要なくなる。後者は遺伝子工学の活用によって、生得的属性の変革を行うものである。暴力的な人間や自尊心の強すぎる人間は、遺伝子の段階で除去され、正義の規範を担う遺伝子が発見され、それを促進させるような培養政策がとられる。これによって、人間性に深く根ざした欲望までが排除することができる。以上が未来国会Ⅰと未来国会Ⅱの概要とその共通点である
課題文で述べられたような未来国家が実現する利点は多くある。戦争や犯罪がなくなるだけでなく、世界遺産の重大な問題が解決するだろう。具体的には、地球環境問題が挙げられる。地球の環境汚染は、これまで何度も世界中で議論されてきた。しかし環境汚染は、世界中の人々一人一人によって引き起こされているため、彼ら全員が意識的にこの問題に取り組む他に解決策はない。人間は目先の利益を追求する生き物であるから。それが将来悪影響を与えるとわかっていても、環境汚染を続けてしまうのだ。しかし、もし人類が同一の正義感で制御されたら、この人類の特性をなくなって皆が同じ目標である環境問題の解決へと協力するだろう。したがって、悪化し続ける地球環境は対処できる問題へと変わることになる。
これに対してデメリットとして挙げられるのが、創造性がなくなってしまう恐れがあることだ。人間は皆違う異なる思想や考えのもとで、多くの美術・文字・映画などの芸術が隆盛したり、様々な製品が発明されたりした。もし皆が脳や遺伝子などを改変され全く同じ正義の規範も持つクローンのような存在になってしまったら、創造する力は失われ、先に述べたような文化はなくなってしまうだろう。また将来、人工知能が発達しても、人間が勝ることができると言われている能力である創造力を失ってしまうことは、人間が人工知能に取って代わられるという可能性を最大限に高め、最悪の場合、人類を滅亡させることに繋がってしまうかもしれない。
添削一部抜粋
出だしですが、
「(略)で共通する考え方は、~によって、(略)というものである。」
~によっての部分があるとよかったです。
具体的には、「科学技術によって」など、脳波探知機(Ⅰ)と遺伝子工学(Ⅱ)をまとめて表現するような用語を使用。
また、(Ⅰ)(Ⅱ)の共通する考え方として、(原文)にある文言からもう一つ先の言及がほしかったかな。
つまり、人類を皆正義の規範に従わせる。→結果として、平和な国家が誕生し、社会秩序が保たれる。
(Ⅰ)にも(Ⅱ)にも、大雑把に言えば、科学技術によって人を操作することは、人間を管理することにはなるが、「国家」や「社会」にとってよいということではないでしょうか。
➋後半の部分は、「発想力」「構成力」という点でもちょっと物足りなさがあるかな。
以下、考察してみます。
あくまで、先生の意見になってしまいますが…
<発想力>
(擁護)
・社会秩序が保たれる
・合理的に無駄なく国家政策レベルのものでも遂行できる。
(批判)
・その行為自体が、「基本的人権の侵害」にあたる。(過去にも、行き過ぎた統制は、持続しなかった。例:大日本帝国憲法や治安維持法など言論や思想統制)
・人間の創造性を奪う
・科学技術の暴走(例として、AIがシンギュラリティに達したら、どうなるか誰もわからない。)
・多様性がなくなる。
上記のように(批判)的なものが多いので、構成案として
<構成力>キーセンテンスのみ
(前半)(略)で共通する考え方は、科学技術によって、(略)というものであり、結果として、平和な国家が誕生し、社会秩序が保たれるということだ。
(擁護)~。
(批判)~。
(自分の意見)以上から、(Ⅰ)(Ⅱ)の未来国家のあり方には、反対である。(Ⅰ)(Ⅱ)の未来国家の実現には、人間の尊厳が担保されることが大前提である。この前提は、今後、憲法の改正や法律を作る上でも、忘れてはいけない。よって人間は、不完全な生き物であることを認識したうえで、科学技術に頼るのでなく、科学技術をうまく利用するという立ち位置がいい塩梅と思える。
といった具合に、蛇足にならない程度で、自分の立場を明記してもいいのかなと思います。ちなみに、最後は、法学部志望なので、「憲法」「法律」と人間の関係性にも絡めて言及してみました。
コメント